給与計算担当者にとって、かつて「年末調整」というと、気の重い年中行事でした。従業員へ申告用紙を配布や回収、申告書と各種証明書のチェックや計算、源泉徴収票の発行まで、やるべきことは盛り沢山です。ただでさえ忙しい年末に大きな負担となっていたのではないでしょうか。そこで、今年の年末調整からはデジタル化を進めて、少しでも効率的業務を行いませんか?
今回は、年末調整のデジタル化に詳しい社労士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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年末調整とは、給与・賞与から差し引かれる源泉所得税の過不足を精算調整するための手続きです。
給与や賞与から差し引かれる源泉所得税は、概算で計算された金額です。
正確な所得税額は、1年間(1月1日~12月31日)に支払われた給与や賞与をもととして、再度計算されます。
さらに配偶者控除や生命保険料控除等といった控除額などを反映し、その年の所得税が確定することになります。
確定した所得税の計算結果と、概算で控除してきた金額を比べ、払い過ぎであったならば差額が還付され、不足があれば不足分を徴収するといった手続きを行うことになるのです。
本来、従業員一人ひとりが行う確定申告の手続きを、会社で年末調整という手続きで行えるということになります。
ただし、年収が2000万円を超える場合や、医療費控除、雑所得などがある場合には、確定申告の必要が生じます。
その他、1年の途中であっても、在職中に亡くなった場合や海外に転勤になった場合などは調整が必要になります。
年末調整は、所得税の過不足を精算調整するための手続きですが、正確に計算を行うために、申告書類、各種証明書類を整え、正しい情報をもとに計算していくことになります。この過程のなかで、かつて人事労務担当者が負担に感じていたものの一つが、紙書類の配布や回収、押印漏れや書類不備による差し戻しといったやりとりではないでしょうか。
そこで令和3年以降は、書類への押印が廃止となったり、関係書類を電子データで提出する場合の税務署承認が不要となったりと、デジタル化が推進され、次第にやりとりの負担が減ってきました。
また、年末調整のデジタル化と足並みを揃えるように、年末調整に関連するシステムサービスも充実してきたこともあり、2022年はデジタル化に踏み切ろうと検討している人事労務担当者もいることでしょう。
申告書デジタル化の進む年末調整ですが、肝はやはりどれだけ紙書類を電子データにスイッチできるかにかかっています。
2021年からは、これまで必要であった税務署の事前承認が不要となったため、デジタル化が加速していくことでしょう。
【事前承認不要で電子データによる申請が可能な年末調整関係書類】
年末調整は所得税の正しい徴収のために必要な手続きであることから、当然ながら税制変更が生じれば手続きや計算方法に影響します。
2022年においても、税制改正が年末調整に影響を与えることになるでしょう。
住宅を新築した人にとって、大きく関係するのが住宅ローン控除です。
住宅ローン控除は、個人の住宅購入等促進のための税制優遇制度です。
住宅を新築購入したり、増改築するために金融機関などで住宅ローンを利用した場合、毎年ローン残高に応じて、所得税・住民税が控除できる仕組みです。
2021年度にも変更がありましたが、2022年にはこの改正の延長措置や限度額等の見直しがされました。
2022年以降申請分のうち、一定の要件を満たすものについては住宅ローン控除率が1%から0.7%に変更となるため、ローン控除率が2種類発生することになります。
【住宅ローン減税の改正点】
控除率、控除期間等の見直し、環境性能等に応じた借入限度額の上乗せ措置を講じた上で、適用期限を4年間延長する。
デジタル化推進とともに、各種証明書も電子データでの提供が可能となってきました。
生命保険、損害保険などの控除証明書、住宅ローン控除証明書といった各種証明書の電子データ提出が可能となりました。
また、社会保険料控除などの控除証明書も電子データが可能となる予定です。
日本国内に住所・居所のない非居住者である扶養親族の扶養控除の要件に変更があります。
こちらは年末調整に直接関係するということではありませんが、2022年中に退職する従業員がいる場合には退職所得に関する課税の要件が変わっていますので注意が必要です。
毎年同じようなルーティンで行う年末調整業務ではあるものの、ここ数年は法改正が毎年行われているため、しっかりと改正ポイントを押さえておくことが非常に重要です。
また、最近は年末調整に関わる書類の電子データ化など環境整備が進んできたことから、年末調整業務をデジタル化にシフトする会社も多いことでしょう。
いずれは、年末調整はデジタル化手続きが一般的になることが予想されます。この機会に早めに手続きに着手されることをおすすめします。
とはいえ、初めてのデジタル化はスケジュールや段取りも重要です。
2022年より年末調整のデジタル化に舵を切る場合には、どこまでの範囲をデジタル化するのか、システムを導入するのか、アウトソーシングするのかによっても異なってきます。
12月の最終支払給与日時点で年末調整を行うということであれば、その日から遡って、しっかりスケジュールを組んでおきましょう。
年末調整をデジタル化に切り替える場合には、事前準備が大変重要です。デジタル化するにあたっては、「どこまでの範囲をデジタル化するか」を明確にしておく必要があります。
完全にすべてデジタル化するのか、一部のみなのか、どのようなシステムを利用するのかといった方法・手段も決めておかなければなりません。
一旦デジタル化に切り替われば、その後の手続きや作業は毎年格段に楽になるものの、切り替え導入時には、検討・決定しなければならないことが少なくありません。
また、従業員から電子データを受け取る場合には、丁寧な説明や案内も必要になってきます。
【デジタル化する場合の確認しておきたい事項】
【メリット】
会社側のメリットとしては、人事労務担当者の作業負担の削減とペーパレスの推進でしょう。紙の書類配布や回収が素早く行えるとともに、紙の申告書の情報を給与システムなどへ転記入力することが不要となります。従来までは電子データを利用した申告書回収には、税務署の事前承認が必要でしたが、2021年より不要になったため、より簡単になりました。
また、年末調整のクラウドサービスなどを利用する場合には、社員への案内や差し戻しが簡単に行えるようになります。以前は修正や差し戻しの都度、社員と担当者間で紙の書類が行き交っていましたが、web上などでのやり取りが可能となるため、スピーディな処理につながります。人事労務担当者の負担感が大きく違います。
【デメリット】
メリットの多いデジタル化ではありますが、軌道に乗せるまでの手間はかかります。控除証明書などすべてが電子データの発行ができるとはかぎりませんので、紙書類と電子データが混在するといった場合もあるでしょう。
どの範囲をデジタル化するか、そしてシステムはどうするか、導入までの期間・コストなど、予め検討しておくことが必要です。
また、社員への周知もしっかり行わないと、いざ年末調整を始めたら、社員からの質問の嵐で対応に苦慮するといったことも起こりかねません。
【メリット】
人事労務担当者の作業負荷削減に大きく効果のある年末調整のデジタル化ですが、社員にとっても簡単・楽になる効果は絶大です。
年に1回書く申告書書類は、手書きの手間や記入ミス、控除証明書を集めて申告書に貼り付けるなど、面倒な作業が多かったものです。
デジタル化となれば、控除証明書など電子データのインポートが可能となるため、面倒な記入をすることなく、さらに記入ミスなく申告書類が作成可能です。
【デメリット】
デジタル化が初めての場合には、少し手間取る社員が出てくるかもしれません。
場合によってはソフトウェアのインストールが必要になる場合もありますし、データのインポート作業は社員に行ってもらうことになりますので、ITに不慣れな社員がいる場合には、丁寧なサポートが必要となるでしょう。
年末調整のデジタル化はメリットが多くおすすめです。
今後は順次デジタル化していくことは必然ですので、これを機にデジタル化へのシフトを進めたいものです。
そこで、肝心なのが、デジタル化を推進していくためのベースである、年末調整のシステムやサービスをどのように考えるかです。
最近では、非常に多くのシステムやサービスが出回ってきました。
どれを選んだらよいかわからないといったことも多いでしょう。
費用だけのことを考えれば、国税庁の年調ソフトを無料で利用する、という手もあります。
手っ取り早く利用するケースも多いかもしれません。
ただし、社員がそれぞれ自分のPC端末などにソフトをインストールする必要があったり、社員からの提出機能はないため、メールに添付して人事労務担当者に送ってもらうなどの手間が発生します。
費用は負担するとしても、できれば、年末調整業務を一気通貫で行えることを主軸に選ばれることをおすすめします。
Web上で書類を配布・回収はもちろん、還付金や追徴額の計算、e-taxなどの申告・ダイレクト納付まで完結できれば、かなり優秀です。
デジタル化を機会に年末調整業務をアウトソーシングしてしまう、というのも選択肢ではないでしょうか。
デジタル化によって、人事労務担当者の作業負担は大きく削減されるとはいえ、導入までの準備やシステム設定、運用の手間は残ります。
費用対効果にもよりますが、思い切って業務ごとアウトソーシングしてしまえば、社員からの問い合わせ対応なども委託できるケースが多いので、かなりの負担削減になるはずです。
忙しい年末の時期に、他の付加価値の高い業務に専念できるというのも大きいメリットとなるでしょう。
なお、年末調整のうち税理士・社労士それぞれの独占業務になっているものがあります。例えば、年末調整に際し、社労士が算定基礎届や月額変更届、社会保険に関する書類を確認して、社会保険料を正しく控除・計算することは問題ありません。しかし、源泉徴収票の作成と提出および法定調書等の提出は税理士が行わなければいけません。検討の際は、それぞれの業務範囲を把握することが必要です。
面倒な作業や手間が多いことに加えて、専門知識も必要で正確な計算結果が求められるのが年末調整業務です。多くの方が、どうやったら効率的にスムーズに、この年中行事をやりこなすか、ということに注力されているでしょう。
人事労務領域だけでなく、進みつつあるデジタル化の波にのって、この年末調整業務も取り組みたいものです。
税制改正で毎年少しずつ変更点があるとはいえ、2022年は比較的変更点が少なく、影響が大きくないと予想されます。
こうした変更点が比較的少ない年に、デジタル化への一歩が踏み出せれば、後々、非常に楽に安心して業務を遂行することが可能になるでしょう。
社会保険労務士法人とうかいでは、「時間」というものは企業の成長において最も大きな影響をもつものだと考えております。
そのため、弊社は「オンラインファースト」を掲げており、昨年2021年以降は、全顧問先に対して年末調整をオンラインで行っております。
平均して、年末調整にかかる時間がおよそ3分の1削減できているところです。
ただ、どんなことから始めたらよいのか、システム導入がいいのか、アウトソーシングがいいのかなど、ご不安な点も多いと思います。
社会保険労務士法人とうかいでは「多くの提案で成長に伴走」という考えのもと、いち早く詳しい情報提供と提案いたします。税理士の方と連携しながら、安心して年末調整のアウトソーシングできるつくってまいります。
弊社への年末調整のアウトソーシングにより、御社においていかに業務を効率化できるのか、また、どのくらい安心してお任せできるのかについては、60分の無料相談でご体感できます。
ぜひ、ご活用ください。